紀田順一郎(1986)『読書の整理学』朝日出版社(朝日文庫)(1)
本を読む前提としての、本の探索と整理に関する技術
読書論というと、本を読むことによって人生や日常に生じるであろう効用の数々や、速読法などの読み方や技術に関するものを思い浮かべがちです。しかしこれらは読む(べき)本がすでに手元にあったり、どれだかわかっていたりするのを前提としているのがほとんどです。問題やテーマがわかっていても、それについて一体どこに書かれているのかがわからなければ、まず〈読むこと〉自体を始めることができません。
紀田の『読書の整理学』で扱われているのは、自分に必要な本をたぐり寄せ、そしてそれらによって得た情報を活用するための物理的・技術的な側面についてです。
続きを読む平澤一(1996)『書物航游』中公文庫(1)
古書と物語
「古本」であるということは、古書店に並ぶ前、それは誰かに所有されていたものであるということです。
その本の所有者は、何らかの形でその本に書かれていることに興味を惹かれたり、またはその本を読む必要に迫られたりして、一度購入しています。
しかしまた何らかの理由で、その本を手放し、それがまた別の、その本に興味を持ったり必要だと感じた人によって買われ、再び読まれます。
つまり最低二人の人間が、店主を入れれば3人以上が、大抵はお互いを知ることもなく、古本を介してつながりをもつことになります。
ひとつの本の読者同士であるという時点で、その本に関する内容や知識をある程度共有しているわけですが、そのつながりは精神的なものです。
ところが古本の場合、そこにはさらに物質的なつながり、つまりその本自体を持っている、という点でもつながりができます。
このようなつながりのなかで、モノとしての本にも、その所有者の歴史や物語が蓄積されることになります。
古本についての本は、そのような本の内容の外側にある物語や、所有者の人生について知ることのできるものです。
平澤一の『書物航游』は、そんな本の一つです。
続きを読むハワード・S.ベッカー, パメラ・リチャーズ(1996)『論文の技法』(佐野敏行 訳)講談社学術文庫(1)
書く時に見るカード
書く前に必ず行うことのひとつに、「書く時に見るカード」をぼんやり眺めるというのがあります。何かを書く前に、一度これらの情報カードを繰って、書く心の準備をするという、おまじないのようなものです。
カードの内容は、論文執筆指南書や文章作成の心得などについて書かれた本から、これはと思うものを概要的に抜書きしたものがほとんどです。この記事を書いている現在、全部で14枚あります。そのなかで半分の7枚を占めているのが、ベッカーの『論文の技法』から作成したカードでした。
『調べる技術・書く技術』(野村進/講談社現代新書)では、このような文章や表現のことを「ペン・シャープナー」として紹介していますが、ベッカーは私にとっての大切な「ペン・シャープナー」にほかなりません。
続きを読む